「クラブハウスサンド」なとき

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このチェーン店といえばこのメニューを注文することが定番、というものが私にはある。バーミヤンに行けば麻婆豆腐かレタスチャーハンばかり頼んでしまうし、びっくりドンキーではポテサラパケットディッシュを頼むことが定番だ。そういった定番の中でも特に思い入れがあるのは、ロイヤルホストのクラブハウスサンドだ。ファミレスの中でも高級なので、ロイヤルホスト自体足繫く通っているわけではないのだが、その立地がちょうどよくて一時期特定の用事があると母と行っていた。我が家でよく利用するロイヤルホストの店舗は、私が通っていた高校と実家のちょうど間くらいにあった。だから母親が高校に来る用事がある時、帰り道に「ごはんを食べて帰ろうか」とよく連れていってもらった。周囲には他にもファミレスやファストフード店があったのに、なぜロイヤルホストだったのかは分からない。駐車場に車が停めやすかったのか、母のパンケーキ好きが関係しているのか、改まって聞いたことはない。ただ、私の中には「高校の帰りによく母と行った」という思い出のみがある。そして私はいつもクラブハウスサンドを頼んでいた。母が高校に行く用事というのは、三者面談の時だ。いわゆる進学校に通っていたので、成績や進学先の大学について担任の先生は細かく気にしていた。高校までの通学時間は1時間半ほどでバスと電車を乗り継ぐ必要があり、10分とか30分くらいの面談のために母はわざわざ来てくれた。毎日通っていた校舎に母親がいるというだけで新鮮だった。

私の両親は学業については基本放任主義、というのが私の感覚だ。中学までは地元の公立校に通い、高校から先の進学先について両親から「この学校に行きなさい」と言われることは特になかった。成績が良ければ褒めてくれるけど、悪くても注意されたことはない。だから高校の三者面談も淡泊というか、母は淡々としていて、担任の先生から「娘さんの成績はこうです。この成績だとこのあたりの大学を狙えます」と細かく説明されても「はい」と「娘が決めた大学ならそれでいいです」といった意味のことしか返さないので、面談はあっさり終わる。私は高校から先の進学先について、実家から通えることと、通学時間を考慮してもアルバイトが十分できることを条件としていたので、2時間以上かけないと通えない都心(具体的には23区内)の学校は受けないことに決めていた。ただ、私の在籍していたクラスでは都心の難関私立大を志望するクラスメイトが大多数で、クラス名にも「選抜」とあったので、先生としてももっと上を目指してほしかったようで、様々な進学先を提案された。高校の2年半ほどの時間を勉強に捧げた反動で受験前に燃え尽き症候群になっていた私は、勉強や進学先についてあれこれ言われることに疲れていて、先生の言葉に「はあ」と曖昧な返事しか返せなかった。「お母さんからもなにか言ってくれませんか」と食い下がる先生に、母は「娘が決めたことですので」と言うのみだった。電車にしばらく乗った後、いつもバスで帰る道のりをその日は母の車で帰る。勉強したくないなと窓の外を眺めていると「ごはんを食べていこうか」と母。そしてロイヤルホストに寄る。私はクラブハウスサンドを頼んで、むしゃむしゃとパンと野菜とベーコンとつけあわせのポテトを食べる。なんでクラブハウスサンドを頼んでいたか分からないけど、スプーンやフォークを使うことさえ億劫だったのかなと今になって考えたりする。クラブハウスサンドは直接手で掴んで食べられるし、サンドに刺さっているピックでポテトも食べられるから疲れなかったのかもしれない。今も昔も私は疲れやすく、中学の頃からよく「疲れた」と言っていた。そんな私に「疲れたね」「頑張りすぎだよ」と母はいつも声をかけてくれた。そういえば母も身体が弱い。自分の弱さを他人にも許せる人なのだと大人になってから気付く。

この時母が何を食べていたのか、母とどんな話をしていたのかはっきりとは覚えていない。でも何を話していないかは覚えている。こういう大学に行きなさいだとか、しっかり勉強しなきゃ駄目だよとか、そういう勉強や学校の話はされなかった。それらの話題を特別避けている風でもなく、普段の外食と同じように他愛もないことを母と娘で話していた。言葉にしないながらに、母は内心心配で仕方なかったのかもしれない。もっと勉強してもっと良い学校に行ってほしいと願っていたのかもしれない。でも勉強に疲れ切っていた私に、強く言えなかっただけなのかもしれない。本当のところは分からない。でもあの時、放っておいてくれたことには感謝の気持ちしかない。あの時厳しく言葉をかけられていたら、私はきっと潰れていただろうから。その後私は燃え尽きながらもなんとか受験を終えるのだが、高校の卒業式時点で進学先が決まっていないという有り様で、3月の終わりにようやく志望校から合格通知を受け取った。その間も両親は何も言わず、合格通知を見せた時は心底喜んでくれた。そんな両親の寛大さを、ロイヤルホストに行く度に思い出す。そして、無性にクラブハウスサンドを食べたくなる時がある。それはきっと人にも自分にも優しくありたいと思う時だ。

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